IT業界で長年問題になっているのが多重下請け構造。プログラマーやシステムエンジニアと言うと聞こえはいいかもしれませんが、「IT土方」と揶揄されるように、その実態は大手ゼネコンが仕切る建設業と似たような構造になっています。
IT業界でいえば大型案件を受注するシステムインテグレーターと呼ばれる企業が元請けとなり、その下に一次請け企業、二次請け企業とピラミッド型の多重下請け構造ができあがります。そして今回はそんな業界の構造によって、エンジニアの賃金は低下するという話をしてきたいと思います。
下請けになればなるほどエンジニアの賃金も低下する
例えばシステムの開発案件を100万円で受注したとします(説明を分かりやすくするため、安い金額にしています)。
自社のエンジニアで開発を行えば、単純に100万円の儲けが出て、儲けから必要経費を除いた分を、作業に従事したエンジニアに分配することができます。何を当たり前の話を・・と思われるかもしれませんが、多重下請け構造が蔓延するIT業界においては、このようにスムーズにはいかないのです。
まず100万円で仕事を受注すれば、90万円で一次請け企業に発注します。そして一次請け企業は80万円で二次請け企業に発注し、二次請け企業は70万円で三次請け企業に発注します。こうしたことがIT業界では往々にして行われているのです。
三次請け企業は本来なら100万円分の仕事をしているにも関わらず、70万円の儲けしか出ません。この70万円を原資としてエンジニアに分配するわけですから、自然とエンジニアひとりの取り分は少なくなってしまいます。よって下請けになればなるほど、エンジニアに支払うことのできる賃金も安くなってしまいます。
上記の例では三次請け企業でストップしていますが、四次請け、五次請けと、さらに階層が深くなればなるほど、一生懸命仕事をしているエンジニアは薄給になっていきます。
管理費という名目の中間搾取
先に例にあげた三次請け企業が実際の開発に従事する場合、一次請け企業や二次請け企業が間に入る意味はあるのでしょうか・・その答えは「ほぼ意味はない」です。
システムインテグレーターと呼ばれる元請け企業は、お客様から仕事を受注していますし、お客様に対しての責任があります。それに会社の格の問題もあり、元請け企業にしか受注できない仕事ですので、それを一次請け企業に発注する際に、管理費用としてマージンを取るのも仕方ないでしょう。
それでは一次請け企業や二次請け企業が何をやっているのかというと、多くの場合は勤怠表の送付や上位会社からの連絡・伝達ぐらいでしょう。たいして何もしていないわけですが、管理費として中間マージンを取っていきます。
こんなことで現場で仕事をしているエンジニアの賃金が安くなってしまうのは、非常にばかばかしい話ではありますが、このような構造にならざるを得ない事情も存在するのです。
多重下請け構造を生んでしまう理由
IT業界が多重下請け構造を生んでしまう理由については、主に以下に挙げる3つの事由が影響しています。
営業力不足
まず単純に会社の営業力が足りない場合、どうしても知り合いの企業から引き合いをもらうしかありません。特にIT業界は横のつながりが強いので、中小規模のソフトウェア企業同士は日ごろから情報交換など親しくしています。
営業力の強い企業が元請けに近い案件に入り込み、営業力の弱い企業に発注するという流れができてしまいます。
人材不足
ITエンジニアは依然として業界全体で不足している状況が続いています。そうすると自社で案件を受注したとしても、社内に空いているエンジニアがおらず、どうしてもパートナーの企業に発注するしかない状況が生まれてしまいます。
逆に人は余っているけど仕事がないという状況になれば、まずは社内のエンジニアを稼働させることに必死になり、仕事を外に出している余裕は生まれないでしょう。景気の波に左右される部分でもあります。
大手企業との口座開設が難しい
元請け企業となる大手企業と取引するための口座を開設をするのは、年々難しくなっています。取引企業との口座をしぼっていく動きもあり、今までの取引口座を解消されてしまうこともあるぐらいです。
取引口座をつくることができなければ、元請け企業から仕事をもらうための一次請け企業になることができません。そうなると、仕方なく一次請け企業から仕事をもらう立場の二次請け企業以下の立場になるしかありません。一次請けは口座貸しのような立場となります。
当社としての取り組み
このようにIT業界では多重下請け構造が当たり前になっており、エンジニアの賃金が上昇しないことが問題になっておりますが、最後に当社としての取り組みについてお話していきたいと思います。
当社が大事にしていることは以下の二点
- エンドユーザーと直接仕事をして元請け企業になる
- 元請けの大手企業と口座をつくって一次請け企業となる
要はエンジニアが不幸にならないために、多重下請け構造が蔓延するIT業界の中でも、元請けや一次請けの立場で仕事をすることを大事にしています。
しかしどうしてもその下の立場にならざるを得ないときもありますが、それでも二次請けまでで、三次請け以降の立場では自社エンジニアをプロジェクトに参画させることはありません。
エンジニアあってこそのIT業界であり、IT企業なわけですから、エンジニアが救われないような環境はあってはいけません。今後もできるだけエンジニアに還元できるように、お客様に近い立場の仕事をしていくよう努めていきます。
おわりに
これまでご説明してきたような多重下請け構造が生まれているのは日本特有の現象だそうです。そのため日本ではITエンジニアの賃金が低いと言われており、残念で仕方がありません。
今後はますます技術革新が進み、それに伴いITエンジニアの力が必要になってきますので、業界全体で現状の構造を見直していくことも必要なのかもしれません。
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